国内段階 中国 解説ページ
中国移行時及び移行後の主な手続きについて解説します。
移行形態
通常移行のみです。
国際出願は、特許、実用新案の出願に限られ、中国国内段階に移行時に特許又は実用新案のいずれか1つを選択可能です。なお、PCT出願の中国国内段階への移行時には、中国における特許と実用新案との同日出願制度は利用不可です。
出願言語
1 翻訳文
(1)翻訳の言語
中国語の翻訳文を提出する必要があります(専利法実施細則第121条(3))。
(2)翻訳文の提出期間
翻訳文を移行と同時に提出する必要があります(専利法実施細則第121条)。
移行期間は、優先日から30月です。ただし、30月を過ぎた場合でも、2月の緩和期間の間に移行可能です(専利法実施細則第120条)。2月の緩和期間を利用する場合には、緩和費用が発生します。
実務上、2月の緩和期間を利用する場合には、優先日から32月までに、移行と同時に翻訳文を提出するとともに、緩和費用を納付します。この場合、30月までに特許庁への事前手続きは不要です。
(3)翻訳文不提出の効果(専利法実施細則第122条(3))
明細書及びクレームの翻訳文が上記期間内に提出されない場合には、移行手続きが認められません。
また、要約書及び図面の翻訳文が上記期間内に提出されない場合には、補正命令が出され、補正命令にて指定された期間内に不提出の場合には、その出願は取下げられたものとみなされます(審査指南第三部分第一章第2.2.2節)。
2 誤訳訂正(専利法実施細則第131条)※1
(1)自発的な訂正
中国特許庁での特許出願の公開作業が完了するまでの間又は中国特許庁による特許出願が実体審査に入った旨の通知書を受領した日から3月以内に自発的な訂正を行うことが可能です。
(2)受動的な訂正
審査段階において、出願書類に翻訳による不備がある場合(翻訳文が原文を越えていた場合)、出願人は、審査官により、誤訳補正通知書にて誤訳を訂正するよう要求されます。誤訳補正通知書に応答する所定の期間内に誤訳を訂正する手続を行わなければ、その出願は取下げられたものとみなされます(審査指南第三部分第二章第5.7節)。
※1:中国では登録後の明細書訂正手続きはありませんので、登録後に翻訳文が原文を越えていたことが見つかった場合、訂正ではなく、解釈で扱われます。具体的には、翻訳文及び原文の範囲において、より狭い方に従って解釈されます(専利法実施細則第135条)。
移行時の補正
1 マルチマルチクレーム
中国ではマルチマルチクレーム※1は、拒絶理由となりますが、無効理由ではありません。そのため、審査段階の拒絶理由を減らす観点から、移行する際に、マルチマルチクレームを解消する補正をしておくことは、可能ですが、必須事項ではありません。
※1:中国ではマルチマルチクレームは原則禁止されていますが、異なるカテゴリーの発明を記載したクレーム間でのマルチマルチクレームは許容されます。例えば、以下のようなクレームの場合、日本では請求項4をマルチマルチクレームとして扱いますが、中国では請求項4の引用先の請求項1~3とカテゴリーが異なりますので、請求項4はマルチマルチクレームとして扱われず、独立クレームとみなされます。
請求項1:成分Aと成分Bとを含む、組成物。
請求項2:成分Cを更に含む、請求項1に記載の組成物。
請求項3:成分Dを更に含む、請求項1又は2に記載の組成物。
請求項4:請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物と、溶媒とを含む、化粧料。
2 クレーム数
中国では、国際公開公報のクレーム数が10を超える場合、追加費用が発生します。移行時又は移行後の補正によりクレーム数が増減しても、費用は変わりません。
3 移行時又は移行後の自発補正の時期
(1)移行時に、出願人が特許協力条約28条又は41条に基づいた補正を審査の基礎とすることを明確に要求した場合、最初の出願の翻訳文を提出すると同時に、補正書類を提出することができます(審査指南第三部分第一章第5.7節)。
(2)実体審査請求時に自発補正することができます(専利法実施細則第57条)。
(3)中国特許庁による実体審査に入った旨の通知書を受領した日から3月以内に自発補正することができます(専利法実施細則第57条)。
付属書類
1 提出書類
国際出願から中国に国内移行する場合、出願人は以下のものを中国特許庁に提出する必要があります(専利法実施細則第121条)。
(1)移行手数料
(2)移行声明書
(3)国際出願が中国語以外の言語で提出されている場合、その国際出願の最初の明細書、特許請求の範囲、要約書の中国語訳文(要約図がある場合には、要約図を指定する)、及び図面(図面に中国語以外の言語がある場合には、中国語に置き換える)
要約書及び要約書選択図については、国際出願公開公報と一致する必要があります(審査指南第三部分第一章第3.2節)。
2 情報提供について
中国では、発明専利について、その発明に関係する出願日前の参考資料等を提出する努力義務が専利法及び専利法実施細則に規定されています。
専利法第36条:
発明専利の出願人は、実体審査を請求する際、その発明に関係する出願日前の参考資料を提出すべきである。
発明専利が既に外国において出願されている場合、国務院専利行政部門は出願人に対し、指定期限内に当該国がその出願を審査するために検索した資料又は審査結果の資料を提出するよう求めることができる。正当な理由なく期限を過ぎても提出しない場合、当該出願は取下げられたものとみなされる。
専利法実施細則第55条:
発明専利の出願人は、正当な理由があって専利法第36条に規定される検索資料又は審査結果資料を提出できない場合、国務院専利行政部門に申し出て、且つ関係資料を入手した後に補充提出すべきである。
特殊手続
1 新規性喪失の例外(審査指南第三部分第一章第5.4節)
国際出願の移行案件に関し、中国の新規性喪失の例外規定を適用するには、国際段階で新規性喪失の例外規定の適用を受けることを明確に声明したことが前提条件です。
この上で、新規性喪失の例外規定の適用を受けるためには、移行時に以下の(1)又は(2)の説明を行うとともに、移行後2月以内に証明書類を提出する必要があります。
移行時に以下の(1)又は(2)の説明を行わなかった場合には、移行後2月以内であれば、補正により当該説明を行うことができます。
(1)中国政府が主催又は承認した国際展覧会※1において初めて出展した場合であって、且つ、国際出願を提出する際に新規性喪失の例外規定を受ける旨の声明を行ったこと。
(2)指定された学術会議又は技術会議※2で初めて発表した場合であって、且つ、国際出願を提出する際に新規性喪失の例外規定を受ける旨の声明を行ったこと。
なお、新規性喪失の例外規定が適用される期間は、いずれも6月です。この期間は、出願日又は優先日(優先権を主張した場合)から起算されます。
「権利者の意に反して公開された発明」については、専利法で規定されていますが、国際出願の移行案件に関する審査指南の規定はありません。
※1:ここでいう中国政府が承認した国際展覧会とは、国際博覧会条約に規定された博覧会国際事務局に登録された又は承認された国際展覧会を指す(専利法実施細則第33条第1項)
※2:ここでいう指定された学術会議又は技術会議とは、国務院関係主管部門又は全国的な学術団体組織が主催する学術会議又は技術会議をいう(専利法実施細則第33条第2項)。
2 PPH(中国特許庁へのPPH申請手続(jpo.go.jp))
対象国の特許庁の審査結果において、特許可能性ありと判断された一つ以上のクレームがある場合には、通常型PPHが利用可能であり、PCT国際段階の調査結果又は国際予備審査の結果において特許可能性ありと判断された一つ以上のクレームがある場合には、条約型PPH(PCT-PPH)が利用可能です。両者のPPHの要件は、ほぼ同じです。
3 審査請求について(専利法第35条第1項)
審査請求期限は、優先日から3年です。
実務上、審査請求期限は、移行期限(優先日から30月、2月の緩和期限を利用する場合には優先日から32月)と近いので、移行と同時に審査請求を行う場合が多いです。
なお、審査請求時に、1年、2年又は3年の遅延審査請求を行うことができます。
諸期限
諸期限(移行・翻訳文など)
期限 | 補足説明 | |
---|---|---|
移行 | 国際出願日(優先日がある場合には優先日)から30月(+2月緩和期限 ※1) | 専利法実施細則第120条 |
翻訳文提出 | 同上(移行と同時に提出する必要あり) | 専利法実施細則第121条(3) |
実体審査請求 | 国際出願日(優先日がある場合には優先日)から3年 | 専利法第35条、専利法実施細則第12条 |
自発補正 | 国内移行時 | 専利審査指南第三部分第一章第3.1.6節 |
実体審査請求時 | 専利法実施細則第57条 | |
実体審査に入った旨の通知書の受領日から3月以内 | ||
OA応答 | 1回目 :審査意見通知書送達日から4月 | 専利審査指南第二部分第八章第4.10.3節 |
2回目以降:審査意見通知書送達日から2月 | 専利審査指南第二部分第八章第4.11.3.2節 | |
拒絶査定不服審判請求 | 拒絶査定謄本送達日から3月 | 専利法第41条 |
異議申立 | - | 異議申立制度無し |
※1:2月の緩和期限を利用する場合、緩和費用が発生します。翻訳文提出の期限は、移行期限と同じであり、且つ翻訳文は移行と同時に提出する必要がりますので、2月の緩和期限を利用する場合には、優先日から32月までに、移行と同時に翻訳文を提出するとともに、緩和費用を納付します(専利法実施細則第103条及び第104条)。
2 その他の手続きの期限
(1)誤訳訂正期限について
中国特許庁での特許出願の公開準備が完了するまでの間、又は、中国特許庁による特許出願が実体審査に入った旨の通知書を受領した日から3月以内に、自発的に誤訳を訂正することができます(専利法実施細則第131条)。審査官に誤訳が指摘された場合、指定期間内に誤訳を訂正することもできます(審査指南第三部分第二章第5.7節)。
(2)新規性喪失の例外規定について
新規性喪失の例外規定が適用される期間は、国際出願日(優先日がある場合には優先日)から6月です(専利法第24条、専利法実施細則第12条)。
費用 ※2024年6月現在
1 主要な費用
費用(元) | 補足説明 | |
---|---|---|
移行(特許) | 900 | 中国特許局を受理局として国際出願を行う場合には、出願費用及び出願付加費用が免除されます。 |
移行(実用新案) | 500 | |
10を超えるクレーム1つにつき | 150 | |
30頁を超える明細書1頁につき | 50 | |
300頁を超える明細書1頁につき | 100 | |
公布印刷 | 50 | |
移行緩和 | 1000 | |
優先権主張1つにつき | 80 | |
実体審査請求 | 2500 | 日本、欧州又はスウェーデン特許庁により国際調査報告が作成された国際出願について、移行後の実体審査請求の費用は、左記の80%分となります。 |
2 その他の費用
費用(元) | 補足説明 | |
---|---|---|
誤訳訂正 | 300 | 方式審査段階 |
1200 | 実体審査段階 | |
単一性回復 | 900 | |
優先権回復 | 1000 | |
不服審判(特許) | 1000 | |
不服審判(実用新案) | 300 |