国際段階 解説ページ

国際段階の主な手続きについて解説します。

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国際出願

 国際出願とは、特許協力条約(Patent Cooperation Treaty)に基づく国際出願を言います。国際的に統一された出願願書を用いて出願書類を作成し、1つの出願を自国の特許庁に手続することで、全てのPCT加盟国に同時に特許出願をしたことと同一の効果を得ることができる出願制度です。
 ある発明について特許を付与するか否かの判断は、各国がそれぞれの国内法令に基づいて行います(パリ条約4条の2)。したがって、日本のみならず外国において特許権を取得したいと考える場合には、その外国に特許出願をする必要があります。しかし、仮に国際出願制度を利用しない場合、特許出願人は各国の言語を用いて出願書類を作成し、全ての国に対して同日に特許出願を行う必要が生じ、多大な手続負担を負うこととなります。このような問題は、特許権による保護を求める国が多数に亘るほど、顕著になると考えられます。
 国際出願制度は、このような煩雑、非効率を改善するために設けられました。この制度を利用することにより、少なくとも以下のメリット(Q4)が得られることになります。

1.出願人の手続負担の軽減
 国際出願制度では、日本語で出願書類を作成し、1つの出願を日本国特許庁に提出すればよいため(PCT11条(4))、手続負担が軽減されます。
2.翻訳文の準備負担の軽減
 外国語による出願書類の準備期間を長期(原則、優先日から30月以内)にわたって確保することができます(PCT22条(1))。よって、短期間に外国語による翻訳文を提出する必要がなくなり、特許出願人の準備負担が軽減されます。
3.容易な出願日の確保
 先願主義のもとでは、発明を保護するためには早期に出願日を確保することが重要となります。国際出願をして国際出願日が認定されれば、国際出願日が外国における出願日となり(PCT11条(3))、軽い負担で出願日を確保できます。
 国際出願の流れ及び費用を抑える制度等については、こちらをご参照下さい。

国際調査、補充国際調査、19条補正、国際公開

1 国際調査

 受理官庁から調査用写しを受け取った国際調査機関(ISA)は、国際出願の請求の範囲に記載された発明について、先行技術となるものがないか調査します。ISAは、「ISAによる調査用写しの受領から3月」又は「優先日から9月」のうちいずれか遅く満了する期間に、調査により発見した先行技術文献を列記した国際調査報告(ISR)を作成します(PCT規則42.1)。ISAは、同時に、発明の新規性、進歩性及び産業上の利用可能性についての判断を述べた、国際調査機関の見解書(ISA見解書)も作成します(PCT規則43の2.1(a))。
 ISR及びISA見解書は、作成後速やかに、出願人及び国際事務局に送付されます(PCT18条(2), PCT規則44.1)。ISR及びISA見解書を受領した出願人は、19条補正、非公式コメント提出、国際予備審査請求等の応答をする余地がありますが(PCT19条(1)、PCT31条)、特に米国、欧州、中国、韓国等の審査制度が整った国に移行する場合は、何も応答せず、各国の審査官の判断を待つ場合が多いのが現状です。なお、ISA見解書で肯定的な見解が示された場合には、PCT-PPHを利用し、各国での早期権利化を図ることも考えられます。
 なお、国際調査における「引用文献のカテゴリー」については、こちら(Q9~Q11)をご参照下さい。

2 補充国際調査

 出願人は、管轄ISAによって行われた国際調査に加えて、優先日から22月を経過する前に、補充国際調査を請求することができます(PCT規則45の2.1(a))。補充国際調査を利用すれば、例えば、英語で出願していなくとも、欧州特許庁による国際段階での調査結果を得ることができます。ただし、その場合、国際出願の翻訳文を提出する必要があります(PCT規則45の2.1(c)(i))。
 なお、補充国際調査に係る手数料(オフィシャルフィー)及び弊所手数料についてはこちらをご参照下さい。
 また、補充国際調査についてはこちら(Q12~Q15)もご参照下さい。

3 19条補正

 ISR及びISA見解書を受領した出願人は、国際事務局に対して、19条補正書を提出し、請求の範囲を一度に限り補正することができます(PCT19条(1))。19条補正は、「ISAによるISR及びISA見解書の送付の日から2月」又は「優先日から16月」の期間のうちいずれか遅く満了する期間に提出する必要があります(PCT規則46.1)。
 19条補正に係る手数料(オフィシャルフィー)及び弊所手数料についてはこちらをご参照下さい。
 なお、ISA見解書の内容が各国の審査官にどの程度参考にされるかは不明であり、むやみに権利範囲を狭めてしまうことになりかねないため、19条補正をするのは稀といえます。一方で、この段階で有効であると思われる補正をしておくことで、各国移行後のOA回数が減る可能性はゼロではなく、その可能性にかけて19条補正をすることも考えられます。

4 国際公開

 PCT出願は、優先日から18月を経過したとき(原則、18月経過後の最初の木曜日)に速やかに公開されます(PCT21条(1),(2)(a))。ただし、国際公開の技術的準備が完了する日より前に取り下げられた又は取り下げられたとみなされたPCT出願の国際公開は行われません(PCT21条(5))。また、国際出願が、優先日から18月を経過したときに、国際出願の国際公開を行う必要がないことを宣言した国のみを指定している場合にも国際公開されません(PCT64条(3)(b))。
 仮保護の利益を早期に得る等の目的で早期の国際公開を希望する場合には、国際事務局にその旨請求することができます(PCT21条(2)(b))。ただし、登録が仮保護の権利行使要件である国において登録にならなかった場合、仮保護による権利を行使することができないにも関わらず、公開された発明が第3者に早期に使用され得るというデメリットも考えられます。また、早期公開には手数料がかかります(PCT規則48.4(a))。
 なお、国際公開が行われる日についてはこちら(Q16)もご参照下さい。

国際予備審査請求

 国際出願は、出願人が予備審査の請求をすることにより、国際予備審査の対象となります(PCT31条(1))。国際予備審査は、国際調査とは異なり、出願人の希望により受けることができる任意のものです。国際予備審査請求により、34条補正の機会が得られ(PCT34条(2)(b))、補正後の発明についての国際予備審査報告を得ることが可能となります。また、国際予備審査においては、国際予備審査機関の見解書に対して答弁書を提出することもできます(PCT34条(2)(c))。
 なお、国際予備審査請求に関するメリットについてはこちら(Q20)をご参照下さい。

1 必要な手続き

 国際予備審査を利用しようとする場合、出願人は、国際予備審査機関に対して、以下の手続をとる必要があります。
①国際予備審査の請求(PCT31条(6)(a))
(期限:国際調査報告等の送付から3月又は優先日から22月のいずれか遅く満了する日(PCT規則54の2.1(a)))
②予備審査手数料及び取扱手数料の支払い(PCT31条(5)、PCT規則57.1、58.1(a))
(期限:国際予備審査の請求書が提出された日から1月又は優先日から22月のいずれか遅く満了する日(PCT規則57.3(a)、58.1(b)))
 なお、国際予備審査請求に係る手数料(オフィシャルフィー)及び弊所手数料についてはこちらをご参照下さい。

2 国際予備審査の請求先

 国際予備審査を管轄することとなる国際予備審査機関は、受理官庁により特定されます(PCT32条(2))。
 例えば、日本国特許庁を受理官庁として国際出願をした場合、当該国際出願が日本語出願である場合には、国際予備審査機関は日本国特許庁となります。また、当該国際出願が英語出願の場合には、国際予備審査機関を、日本国特許庁、欧州特許庁、シンガポール知的所有権庁又はインド特許庁から選択することができます(詳細はこちら)。ここで、日本国特許庁、欧州特許庁及びシンガポール知的所有権庁は、各機関が国際調査を行う機関である場合に限り、国際予備審査を管轄します。

3 国際予備審査請求後の流れ

 国際予備審査機関が必要な書類及び手数料を全て受領した時点で、国際予備審査が開始されます。なお、出願人の請求により、上記①の期限まで国際予備審査の開始を延期することも可能です(PCT規則69.1(a))。
 国際予備審査機関が国際予備審査の請求書を受理した場合には、国際予備審査機関は、国際事務局に請求書(又はその写し)を送付し、出願人にその受理の年月日を通知します(PCT規則61.1(a)、(b))。
 その後、国際事務局は、選択官庁に対し選択された旨の通知等を送付するとともに(PCT31条(7)、PCT規則61.2(a))、出願人に対し、当該通知及び通知を受けた選択官庁を通知します(PCT規則61.3)。

見解書及び答弁書

1 国際予備審査機関の見解書

 国際予備審査機関は、請求の範囲に記載されている発明に関し新規性、進歩性及び産業上の利用可能性について否定的な見解がなく、その他の要件についても満たされていると認められる場合を除き、少なくとも1回、出願人に対しIPEA見解書を通知しなければなりません(PCT規則66.2(a)(ii))。
 但し、「(2)1.国際調査」に記載の国際調査機関の見解書(ISA見解書)は、原則として、1回目のIPEA見解書とみなされる(PCT規則66.1の2(a))ため、国際予備審査請求後に必ずしもIPEA見解書が通知されるわけではありません。

2 答弁書

 出願人は、IPEA見解書に対して、答弁書を提出することができます(PCT規則66.2(c),66.3)。
 具体的には、出願人は、国際予備審査を請求した時から、①通知の日(PCT規則66.2(a)の通知の日:見解書の発送日等)から3月(PCT規則66.2(d))②優先日から22月のうちいずれか遅く満了する期間までに答弁書を提出することができます(PCT規則54の2.1(a)(ii))。出願人は、答弁書を(必要な場合には補正書とともに)国際予備審査機関に提出することができます(PCT規則66.2(c))。

3 追加の見解書及び答弁書

 国際予備審査機関は、必要に応じて国際予備審査機関としての見解書を再度作成することもできます(PCT規則66.4(a))。出願人は、追加の見解書に対して、通知の日(見解書の発送日)から2月(最大2月延長可能)に、答弁書を国際予備審査機関に提出することができます(PCT規則66.4(a)に適用するPCT規則66.2,66.3)。

34条補正、国際予備審査報告

1 34条補正

 34条補正とは、国際予備審査請求した出願人が、請求の範囲、明細書、図面について何度でもすることができる補正です。

【提出期間】
 国際予備審査の請求の日から国際予備審査報告が作成されるまでの期間に提出することができます。
→国際予備審査機関が報告の作成を開始した後に補正書を提出した場合、当該補正内容が考慮されることなく報告が作成されることがあります(PCT規則66.4の2)。

【提出先】
 国際予備審査機関に提出します。
 なお、34条補正の実務上の目的及び注意点についてはこちらをご参照下さい。

2 国際予備審査報告

 国際予備審査報告とは、国際予備審査機関が請求の範囲に記載されている発明の新規性・進歩性・産業上利用可能性について審査した結果の報告です。

【作成時期】
 国際予備報告は、以下の期間のうちもっとも遅く満了する日までに作成します。
(1)優先日から28月
(2)国際予備審査の開始の時から6月
(3)国際予備審査機関の求める言語で、かつ、国際公開の言語による翻訳文の受理の日から6月

【出願人の対応】
 国際予備審査報告に基づいて、国内段階へ移行するか否かを検討します。
 国際調査報告の作成時において未公開等の理由で調査できなかった文献についても、国際予備審査の調査対象とするトップアップ調査が2014年7月1日以後に請求された国際予備審査請求から行われています(PCT規則66.1の3)。

国内移行手続(一般論)

 国内移行手続は、国際出願を各国の国内手続に係属させるための手続をいいます。国内移行手続を行わなければ各国で権利を取得することができない点で、国内移行手続は極めて重要な手続となります。

1 移行国

 通常は、原則として、各国に直接移行することができます。
 但し、広域官庁へ域内移行した後でなければ移行できない国もありますので、注意が必要です。例えばフランスには直接移行することができず、まずはEPOに移行する必要があります。
 また、台湾はPCT加盟国ではないので、PCT出願をした後、台湾に移行することはできませんので、注意が必要です。
 なお、移行可能な国についての詳細はこちらをご参照下さい。

2 移行期限

 国際出願の国内移行期限は、現在、一部の例外を除いて、「優先日から30月」となっています(PCT22条(1)、39条(1))。
 各国は、国内移行期限として、優先日から30月より遅い時に満了する期間を定めることができると規定されています(PCT22条(3))。これを受けて、例えばヨーロッパや韓国への国内移行期限は優先日から31月とされています(EPC規則159(1)、韓国特許法201条)。
 また、中国では国内移行期限は「優先日から30月」ですが、追加料金を支払うことにより2月の延長が可能となっています(中国専利法実施細則103条)。

3 具体的手続

 移行手続は、具体的には翻訳文の提出及び国内手数料の納付等です(PCT22条(1))。
 日本に移行する場合は、日本語でなされた国際出願については翻訳文の提出は不要ですが、国内書面の提出及び国内手数料の納付は必要となります(特許法184条の5)。また、国際段階で19条補正・34条補正が行われている場合には、これらの補正書の写しを国内処理基準時の属する日までに提出する必要もあります(特許法184条の7、184条の8)。新規性喪失の例外適用を受けることを希望する場合には、国内処理基準時の属する日後30日以内に、その旨を記載した書面及び証明書面を提出する必要があります(特許法184条の14)。
 外国に移行する場合には、翻訳文の提出が必要となります(PCT22条(1)、39条(1))。